子どもとワークをするときに

佛教大学社会福祉学部 
子どもと家族の小さな図書館 ちいさなとびら
長瀬正子

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1.ワーク実施の原則
~私がふだん子どもとのワークで大切にしていること

①ワークショップという考え方
 〜学習者(子ども)に力があると信頼し、ファシリテーターは場を安全に保ち進行する

図1:ちょんせいこ(2007)『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』解放出版社、p.19

 

 基本的な参加型学習の原則を大切にしています。「教える人」「教えられる人」という位置づけでなく、学習者には力があると信頼し、結果ではなくプロセスを大切にします。進行役であるファシリテーターは、子どもが安心して気持ちが出せるよう場を安全に保つ工夫をすること、時間をマネジメントすることが重要です。

 2000年ごろ、フィリピンの人権教育、アメリカの多様性教育、カナダの社会的養護の当事者ユースによるワークショップに参加しました。人権にかかわる多様なワークショップを経験したことは、私の子どもとワークをする際の土台になっています。また、日本でも大阪YWCAや大阪の市民講座で素敵なファシリテーターに出会ってきました。

 そこで出会ってきたファシリテーターから学んだことは、場をつくるエッセンスです。

人と人とは対等である        
時間は平等に
多様性への理解と尊重         
体験にひきつけて感情を共有し、学ぶ
ユーモアと遊び心は大切       
声を引き出す工夫
場を安全にすること

 人が安全でいられる場、学びをすすめられる場には条件があります。
 子どもの暮らしの場で、学びの場で、これらのことが大切にされることを願っています。

 

② ワークをする目的とビジョン

 なぜ、「気もちを聴く・子どもの権利を学ぶワーク」をしたいと考えるのでしょう。子どもの声を聴くためには、それを聴くおとなの力量が大切になってきます。そして、厳しい状況にある子どもがいた場合、その子どものことを支えるおとなのネットワークが求められます。声を聴いたときに、ただ「聴く」のではなく、具体的なアクションを起こす必要もあるので、おとな同士の関係性も非常に重要です。
 まず、このワークを実施しようとする団体において、今回のワークをすることがどのような位置づけになるのか、団体の事業目標やビジョンとどのようなかかわりがあるのか、説明できることも大切です。そして、全員が合意したうえでのワーク実施にならなくても、あなた自身のビジョンは明確にしておく必要があります。畑を耕していくようなイメージで長期的な戦略が必要な場合もあります。習慣や場のあり方を変えていくのは非常にエネルギーがいることです。その思いをもつ人が、たった一人の場合、一人でも仲間を見つけて、ちょっとチャレンジしてみることも一案です。子どもの思いや変化を目の当たりにすることで、変化を受け止められる人もいます。

 

③ おとなが事前に話し合う大切さ、おとな同士が気もちを共有できる関係性をつくる

 おとなにとっては、子ども時代を振り返るワークになります。人によっては、さまざまな感情が呼び起こされる場合も少なくありません。まず、おとなでワークをするのも一案です。どうやったら安全にワークが受けられそうか、自分自身の子ども時代を手がかりにしながら考えることができます。ワークの実施とその振り返りでは、おとな自身の気持ちの共有をしてください。そのうえで、対応が必要な内容が書かれた場合を想定して、どのように対応するかを事前に話し合っておくことが大切です。近隣の場所で、具体的に相談にのってくれそうな場所や人がいる場合、ワーク場面に同席してもらえるとよいです。最も対応が必要だと考える場合、例えば暴力にかかわる記述をみると、大人側も様々な感情が想起されます。そのような場合も、気持ちの共有をしたうえで、具体的な対応策を検討します。

  

④ ワーク自体が子どもにとって社会資源を知るプロセス、その後につなげられるとベスト

 子どもと一緒にあるコミュニティでこのワークをすることの一番の意義は、子どもが気持ちを共有できる仲間と支援者(子ども・大人)に出会うことにあります。時間をともに過ごしあるテーマを学ぶということは、お互いに共通の言語と認識を持てるということです。困ったことがあったら、ここにいる人たちに助けを求めることができる、そんな実感を持てる場になれば素晴らしいと思います。ただ、具体的な仕掛けがないとその後につながりにくいです。意見箱や、大人に話を聴いてほしいときは「きいてほしい」といつどのように伝えるかなど具体的な方法を明示しておくことは大切です。

  

⑤ 基本的なワークショップの流れを知っておく

 子どもと一緒にするワークの大まかな流れは、

アイスブレイク
  ⇓
グランドルールづくり
  ⇓
メインのワーク(アクティビティともいう)
  ⇓
ふりかえり

になります。
 グランドルールづくりは、とても大切ですが、時間が足りなくなる可能性もあるので、別の機会でもいいと思います。
 小学生の子どもの場合、この一連の流れが1時間で終わるようにするとよいと思います。

 

◆ アイスブレイクは子どもにとって非常に大切 ◆
 CVVでは、子どもたちとワークをするときには必ずたくさん遊び、ワーク以外の時間をとっていました。

【参考例】

 ・CVVお泊り会~その3 夕食はカレー(2009年12月25日(金))
  ワーク以外の時間は、スポーツや料理などそれ以外の時間をたっぷりとっていました。

 ・まずは緊張をほぐそう!メイプル3日目その2(2009年8月7日)
  CVVとカナダのPARC(Pape Resource Adolescence Center、ぺイプ若者資源センター、
  社会的養護の若者を支援する団体)との交流では、大阪の施設で育つ中高生が大勢集まりました。
  初めて会った子ども同士がつながれるよう様々な工夫を盛り込みました。

 ・番外編 未来予想図ワークの裏側2(2009年8月16日)

  

⑥ ファシリテーターは自己開示をすること

 なぜこのワークを実施したいと考えたのか、なぜ大切だと考えるのか、自分の想いを子どもに分かる言葉で伝えます。私自身の子どもの権利条約との出会いについて語る場合もあります。
 絵本を用いたワークの場合、問いかけに応えることそのものが子どもの自己開示を含みます。子どもに問いかける前に必ず「自分はどう思うか」ということを自分の言葉で語ることが大切です。

 

⑦ 流れを説明し、時間をまもる

 休息を確保すること、そのような時間があることを明示すること、終わりと始まりの時間、つまりどれくらい集中するのかを伝えることは大切です。
 まず、最初に終わりの時間を明示し、大まかな流れも見やすいところに示し説明しています。

【参考例】

 ・まずは自己紹介 ~みんなの会 その1~
  CVVが主催で全国の社会的養護当事者団体が集まり、交流する機会がありました。
  タイムテーブルが張り出されています。
  CVVの活動拠点eトコの大家さんがつくってくれたものです。

 

⑧ 子どものペースを何よりも大切に

 時間内に主催者としてすすめたい達成目標があると思いますが、このワークは、
(1)子どもの気持ちを聴く
(2)その気持ちにかかわる子どもの権利があることを知ること
に主たる目的があります。
 子どもをよく観察し、子どものペースを大事にするようにしています。

  

⑨ 安心して参加できるような場づくり

 参加する・しないの判断を本人の意思にゆだねます。このワークは、まもられた環境で参加することが重要だからです。大人対象のワークでも「大事なワークだから、私としてはぜひ参加してほしいけれど、無理をしないし、頑張らなくていい」というメッセージを繰り返し伝えるようにしています。
 場をつくるためのグランドルールをつくるのもおすすめです。私は、あるグループの学びの最初の回は必ずルール作りをします。
 年長の子どもや、同じテーマを抱えている仲間の子どもがスタッフにいると、子どもの安心度合いは高まります。年長の子どもたちの力を借りることができるならば、おすすめです。

【参考例】

私が大学の授業でグループワークをする際に活用しているぬいぐるみ。
侵入的なワークを行うこともあることから、PASSできることを大切にしています。通称PASSちゃん。心や体の状態が悪い、ワークに参加するのが難しい日は、このぬいぐるみを席にもっていくよう伝えています。教員に説明しなくとも自分主体で「参加しないことを選ぶ」ための工夫のひとつです。

 

【参考例】

 グランドルール作り 「★を選ぼう」
子どものワークから大学生の授業までルール作りでするワークです。9つの項目と白紙1項目で自分たちがワークの時間大切にしたいことを選びます。わざと子どもにとって不快と感じそうなものを入れて選びやすくするのもコツ。1つずつ読み上げて、要るか要らないかを尋ねます。要らないカードを「破っていいよ」と伝えると、子どもたちは喜んで破ってくれることが多いです。

★1 つかれたら、休んだり、やめたりすることができる
★2 ここにいる人には、敬語を使わなければならない。
★3 言いたくないときは、なにも言わなくてよい。
★4 ここにいてもいいなあ、と安心できる。
★5 その人が話すペースを大切にする。
★6 大人や年上は子どもに説教することができる。
★7 自分が話をしている時に、じゃまされない。
★8 ねころんだり、自由なしせいで参加できる
★9 ここで友達が話したことをかってに他の人に話さない

 

【参考例】

梟文庫でワークショップをした際のグランドルール。ホワイトボードの隅に貼っています。

子どもの権利のワークショップ 3 ~休校対応へのささやかな抵抗(2020年3月13日)

 

⑩ 子どもの発言と書かれたものへの敬意

 子どもが書いたものや発言を大切にしています。発せられたことそのものが、大人に対する信頼であるからです。書いたものをどう取り扱うか、大人が決めた方針を子どもに分かるように説明してください(回収、共有の有無、webサイトへの掲載など)。また、書いた内容や発言に対して、決して評価の言葉を言わないようにしてください。難しいことですが、「わたしは~と思った」と私を主語にするとよいと思います。

 

2.具体的な進行のポイント

(1)準備

①進行の体制を確認する

子どもの参加の度合いを選べるようにするためには、複数の大人がいる体制が必要。

例)参加する子どもが10人の場合
 大人は少なくとも4人必要。内訳は、進行役1人、しっかり参加する子どもグループに1人、ゆるやかに参加する子どもグループに1人、参加しない子どもグループに1人。

親子でワークを実施する場合は、できるだけ子どもグループ、親グループに分けられるとよい。

 

②ワーク後の対応をあらかじめ実施側で検討する

基本は、学校や子どもにかかわる場で実施する際には、子どもの状況を把握するためにワークシートを回収する。
・内容に対応が必要な記載があることを想定して、大人で対応方法を事前に話し合っておく。
・誰がワークシートを読むか話し合っておく(子どもに誰が読むかを共有した後には、それ以外の人はぜったいに見ない)
・ワークシートの保管責任者・保管方法を話し合っておく 最終的には個人情報を破棄するところまでを複数人で最終確認できる状態をつくる。担当者になにかあったときに、引き継ぐ相手と内容までを決めておく

 

③ワークのグランドルール(大切にしたいことや目標含む)を子どもたちと考える作業の準備をする。このワークをワーク時間に入れ込むと長くなるので、別途時間をとってもよい。

例)カードの作成
さまざまなカードを作ってみんなで選ぶ時間を持つ。
「 いやなカードはやぶっていいよ!」と言うと喜んで参加が活発化する。
(カードの内容例/敬語をつかう・話したくなければ話さなくていい・自分のペースで話す・おとなが子どもに説教できる等、さまざまな角度のカードを用意する)

 

④ゆるやかに参加したい子、今回はパスしたい子の居場所を設ける。

例)ぬいぐるみなど、居場所に目印をおくなどし、目に見える形にする

例)「しっかり参加する/様子を見ながらゆるやかに参加する/参加しない」と場所を区切り、選べる形にする

 

(2)展開案

↓クリックすると、拡大PDFが開きます

【参考例】

大学のゼミで、この展開案をベースにワークを実施しました。その報告がこちら。

note 学生とワークを楽しんでいます。(2021年10月7日)


(3)ふりかえり

ふりかえりは、必ず記録化しましょう。気づきや学び、考えさせられた点を次に活かしていくヒントが豊富にあります。

①まず、ワークを実施してみての感想を大人同士で共有しましょう。

②次に回収されたワークブックを見ましょう。かかわった大人全員でふりかえりをしましょう。また、子どもの様子についてもエピソードを交えながら共有しましょう。

③対応が必要な場合はその内容を検討しましょう。今すぐできること(次回会議日程の調整など)にとどめ、具体的な対応は別の機会の方がいいかもしれません。

 

 

おわりに

さまざまな子どもにかかわる場所で『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』を実践してくださっているという報告が届いています。作者チームでは、これらの実践方法についてインタビューさせてもらい、皆さんに共有できるようにしていきたいと考えています。

noteのマガジン「ワークしました」内にアップしていく予定です。フォローをよろしくお願いいたします。

 

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参考文献はこちら→

 

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